2018年03月07日
お世話になっております。宮崎大学の佐々木羊介と申します。私はP-JETの中では少数派の大学の所属であり、なおかつ「非獣医」のメンバーです。これまでブタやウシなどの産業動物の繁殖成績を対象とした疫学研究を進めてまいりました。学生時代は明治大学にて纐纈先生の指導の下、繁殖母豚の生涯成績および長期生存性の向上を目指した研究を行っていました。学位取得後は宮崎大学の末吉先生の研究室に所属し、口蹄疫被災地域である宮崎県児湯川南地域の養豚農場を対象として、口蹄疫発生前後における生産性の推移を調査し、同地域の復興の手助けとなるような研究を実施してきました。2014年より宮崎大学のテニュアトラック教員として正式に採用され、現在は自身の研究室を主宰し、研究および学生指導に邁進しております。
私は「疫学」という分野を専門としており、主に生産現場から得られた膨大な生産記録または疾病情報の活用を目的とした「生産疫学」を実施しています。生産現場において生じる問題は、単独ではなく複数の要因が相まって影響していることが多いため、「生産性向上」に寄与する因子を正しく抽出することは非常に困難です。そこで、その解決策を探査するために、生産現場に存在するビッグデータを用いて、問題点を広い視野から明らかにし、多量の生産情報から有益な知見を得るために研究を行っています。
近年、飼養頭数の大規模化や集約的な飼養管理への変化に伴い、生産農場では生産記録を電子ファイルとして記録・保持し、大規模なビッグデータを構築するようになりましたが、生産者や管理獣医師などはこれらの生産記録の分析および活用に関する技術および時間がないため、このビッグデータの活用はまだまだ未成熟です。今後、更なる飼養形態の変化、国際競争力の激化、飼料や資材の高騰が予想される中、生産性向上に結びつく「科学的数値に基づいた飼養管理」を確立するために、多くの研究者が疫学手法を活用し、生産現場に還元できるような研究事例を積み上げていくことが重要だと考えていますし、大学からの情報発信も積極的に行う必要があります。
では大学教員の仕事とは何でしょうか?大学に所属する研究者に課せられた使命は、研究と教育、そして大学運営の3つです。この中で、一番重要な業務はもちろん研究です。学術的な研究の意義は、まだ世にない新しい事象を解明・発見することです。研究のテーマによっては、1年で解明できる事象もあれば、解明までに数十年の時を要する事象もあります。そして、その発見した内容を、すぐにでも実社会で活用することのできる発見もあれば、逆に実社会における活用までに更なる研究が必要となる発見もあります。
養豚の生産現場でよく聞かれる意見として、日本の大学は生産現場に貢献するような研究をあまり行っていないのではないか、ということが挙げられます。しかし、上述のように、研究とはすぐに応用できるものだけでなく、実用化まで長い年月がかかるテーマもあるということ、そしてそのような研究こそが10年後、20年後の養豚業界を支えていく可能性が高いということを理解頂ければ幸いです。しかし、だからと言って、研究だけをしていては研究者としての役割を果たせていません。研究内容が基礎的な発見であれ、応用的な発見であれ、研究者はその成果を学術論文として世間に公表する義務があります。そして、その内容を学会やセミナーなどで広く宣伝することも重要です。私が大学時代の指導教官や海外の研究者から何度も言われたこととして、研究は論文として科学雑誌に掲載されて初めて完成する、ということです。特に臨床現場のデータでは、様々なバイアスや主観的な解釈が含まれやすいため、得られた知見が科学的妥当性のない内容である可能性もあります。
私は他のP-JETのメンバーよりも現場経験が少ないのですが、その弱点を逆手に取り、P一歩引いた立ち位置で、客観的な判断を担えるようなスタンスを取り、そしてP-JETで得られた成果を科学雑誌に掲載できるよう、尽力していきたいと考えております。産官学、あらゆる組織に属するメンバーが集ったP-Jetの一員として、少しでも養豚業界に貢献できるような活動ができるよう、尽力する所存です。よろしくお願いいたします。