Vol.16 豚コレラで大変ご苦労されている地域の方々の気持ちを考えてみた 野津手麻貴子

2019年01月16日

初めまして。私は宮崎県で開業している野津手家畜診療所の野津手と申します。実家は同県で養豚場を経営しています。私が中学生の頃に他界した父が養豚専門の獣医師であったので、養豚専門獣医師という仕事はとても身近な職業でした。また実家の農場を継いでいた兄が残念ながら亡くなってしまい、その後は私が後継者として農場の運営を全て任されています。

私が開業したのが2009年。そして宮崎県で、あの口蹄疫が発生したのが2010年。地元宮崎に戻り開業してたった1年で、お客さんの農場、知り合いの農場、そして実家の農場から豚が居なくなりました。私は約2か月間、殺処分に従事して参りました。その間、色々、色々ありました。様々な気持ちが混在し、当時の記憶を思い出すのは非常に辛く、出来る事なら忘れてしまいたい。しかし経験者だからこそ風化させてはいけない想いは人一倍あります。ですので、辛い記憶は胸の奥にしまいつつ(これが中々難しいのですが…)、要請があれば当時の記録を話す事も行っています。

今回、岐阜県において豚コレラの発生が続いています。感染した野生イノシシは愛知県まで広がっています。当初は第1例目が初発ではないかと調査が続いていましたが、先月開催された農水の防疫対策会議では、「違法に持ち込まれた食品が、家庭ゴミとして廃棄 されたり、行楽地などで廃棄されたりすることにより、野生イノシシが感染していた可能性が否定できない」となっています。という事は、日本のどの都道府県においても、同じリスクがあるという事です。それにこの侵入リスクは、アフリカ豚コレラや口蹄疫も同様です。

2010年の口蹄疫と異なる点は、豚コレラが野生イノシシの中で広がっている点です。行動を制御できない野生で感染が拡大しているため、豚コレラに感染したイノシシが実際どこに居るのか100%把握できない。イノシシでの発生が確認されている地域の方々の追い詰められた気持ちは痛い程分かります。感染させないよう、必死に出来る限りの農場防疫に取り組まれている方々も沢山いらっしゃると思います。その一方、消毒しなくて感染してしまったと言うような、まるで他人事の様な農場があるのも事実です。農場が移動制限や搬出制限範囲に入ってしまったら、少なくとも3週間は導入も出荷も出来ません。たった3週間ではありません。3週間“も”です。

現状我々がやるべきことは、自分の農場は自分で守る。そして、近隣の農場も巻き込んで防疫を考える事ではないでしょうか。地域の中には非協力的な農場もあると思います。直接話すのが難しいのであれば、団体や行政の力を借りるのも方法と思います。殺処分されるのもするのも移動制限に入るのも、そして殺処分された報告を聞くのも辛い。私も今一度、農場防疫の徹底を肝に銘じたいと思います。